密吉の備忘録

一向に整わないところで

常連のおっちゃんの話

学生時代のバイト先(洋食屋)には
常連さんと呼べるようなお客様がたくさんいらっしゃった。
その中でも印象深いのは
オレンジラインのスポーツTを着たおっちゃんだった。

 


いつも待ち時間にタバコをぷかぷかふかし、
お料理の提供は必ずお味噌汁が先。
頼むお料理はいつも同じ。
毎週同じ曜日の19:00ごろにやってくる。

「今日もいつものですかねえ。」と尋ねると
「今日はそば。」とおっちゃん。
「ほなキツネとタヌキどっちにしましょうか〜。」
なーんて冗談かませるようになっていった。

そして私のことは愛称でいつも呼んでくれていた。

おっちゃんと将来の話をすると
「あんたは幼稚園の先生にならなあかん。」って
耳にタコができるくらい聞かされた。
「まあぼちぼち行きますわあ。」
まだ大学1年生、2年生だった私は先のことなんて考えられなかった。

2年生の実習明け、
おっちゃんはぱったりこんようになっていた。

もうあのおっちゃんに会えることはない。

私、やっぱ保育の道に進むことにしたんよ、って
おっちゃんに言ったらどんな顔しただろうか。
もう来んだろうけど。

社会人になって1年目。
おっちゃんを見んようになってから3年。

突然、退勤途中におっちゃんを見つけた。
車の中から叫ぶこともできないし、
もう私のことは忘れているであろう。

おっちゃん、当時はありがとう。
私はなんとか生きとる。しんどいけどな。

って言いたかったけど言えなかった。

おっちゃん、元気でな。


もちろんおっちゃんは
その時もオレンジラインのスポーツTを着ていた。

Tシャツは同じでも、
お散歩のルーティンが変わってしまったんだろう。

今はどこで常連やってんのかな、おっちゃん。

きっと私はこの道に進んでなかったら
ただの消えたおっちゃんと思っていただけだろうと思う。

おっちゃん、人生、楽しんでね。

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